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岡山地方裁判所 平成12年(行ク)2号 決定

産業廃棄物処理施設設置不許可処分取消請求事件(平成11年(行ウ)第20号、以下「基本事件」という。)に対する補助参加申立てに対する異議申立事件、平成12年(行ク)第2号 参加申立事件

主文

一  別紙補助参加申立人目録記載の番号一ないし三二三一、三三六一ないし三四三五、三五〇九ないし三五二四の補助参加申立人らが基本事件被告を補助するため基本事件に参加することを許可する。

二  別紙補助参加申立人目録記載の番号三二三二ないし三三六〇、三四三六ないし三五〇八の補助参加申立人らの本件補助参加申立てをいずれも却下する。

三  参加申立人吉永町が基本事件被告を補助するために基本事件に参加することを許可する。

四  本件補助参加等の申立てに対する異議の申立てによって生じた費用のうち、異議申立人(原告)と別紙補助参加申立人目録記載の番号三二三二ないし三三六〇、三四三六ないし三五〇八の補助参加申立人らに生じたものは右補助参加申立人らの負担とする。

理由

一  事案の概要及び本件各参加申立ての理由等

1  事案の概要

(基本事件)

異議申立人(基本事件原告。以下「原告」という。)が、基本事件被告(以下「被告」という。)に対し、原告の岡山県和気郡β七五四番一の土地ほか七筆の土地(以下「本件予定地」という。)に産業廃棄物処理施設(以下「本件処理施設」という。)を設置するための設置許可申請(以下「本件許可申請」という。)に対する平成一〇年五月二〇日付け不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)の取消しを求める事案。

(本件事件)

本件予定地のある吉永町の住民である別紙補助参加申立人目録記載の補助参加申立人aほか三五二三名(以下「補助参加申立人aら」という。)が民事訴訟法四二条に基づき、参加申立人吉永町が主位的に同条に基づき、予備的に行政事件訴訟法二二条に基づき、いずれも被告を補助するために基本事件に参加することを申し立て、これに対し、原告が右いずれの参加申立てについても異議を述べた事案。

2  補助参加申立人aらの補助参加申立ての理由の概要

(一)  民事訴訟法による補助参加が認められるためには、補助参加人が「訴訟の結果について利害関係を有する」必要がある(民事訴訟法四二条)が、真に保護に値する利害関係人の利益の保護及び適切な手続上の地位の保障という観点や行政事件における原告適格の要件が緩和される傾向にあり、補助参加の要件は、原告適格の場合より緩やかに判断されるべきであることからすると、被参加人の敗訴によりその判決理由中の判断等が補助参加人に不利に影響する可能性があれば、参加の利益はあるというべきである。

(二)  廃棄物の処理及び清掃に関する法律は、産業廃棄物処理施設の設置許可基準として、周辺地域の生活環境保全について適正な配慮が行われていることを要求しているが、これを要求していない本件許可申請がなされた当時の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成九年法律第八五号による改正〔以下「平成九年改正」という。〕前のもの。以下「廃掃法」という。)についても、設置許可を求めようとしている産業廃棄物処理施設の周辺に居住し、右施設がもたらす悪影響により直接重大な被害を受けることが想定される付近の住民の生命身体の安全などを個別的利益として保護する趣旨を含むものと解するべきである。

ところで、補助参加申立人aらは、本件予定地のある吉永町の住民であり、本件予定地を水源とする水道水ないし井戸水を飲料水及び生活用水等として使用しているものであるが、基本事件において被告が敗訴して本件不許可処分が取り消されれば、水源地である本件予定地に本件処理施設が設置され、水源が汚染される結果、補助参加申立て人aらは、安全な飲料水の供給等を受けることができなくなり、その生命・健康の維持等に極めて深刻な状況を生じ、補助参加申立人aらの人格権に対する侵害となるし、水道法に基づき補助参加申立人aらの給水契約上の安全な給水を受ける権利の侵害ともなる。原告は、これを事実上の影響にすぎないと主張するが、本件処理施設の安全性及びその程度はまさに基本事件の争点であって、本件処理施設はきわめて危険であるから、補助参加申立人aらが受けるおそれのある被害は直接的できわめて重大である。

(三)  また、基本事件において被告が敗訴すれば、補助参加申立人aらが産業廃棄物設置許可処分の取消訴訟や産業廃棄物処理施設建設の差止訴訟を提起することになるが、この訴訟において、基本事件の判決の理由中の判断が補助参加申立人aらに対して事実上不利に影響することは必至である。

(四)  さらに、補助参加申立人aらは、本件処理施設の立地計画の段階から、本件処理施設建設に対して自主的かつ主体的に反対運動を行い、直接請求により住民投票条例の制定を実現させ、住民投票(投票率九一・六五パーセント)において九七・九五パーセント、全有権者の八九・七七パーセントの反対票が投じられ、右のような住民反対運動の結果、吉永町としても本件処理施設建設に反対の立場をとり、原告との事前協議においても本件処理施設の安全性について問題を指摘してきたものである。そして、本件不許可処分では、その理由として、吉永町との間で十分な協議、調整が行われていないことが挙げられており、実質的にみれば、補助参加申立人aらの本件処理施設設置反対運動により、被告は本件不許可処分をするに至ったともいえる(審査請求棄却の裁決も同様である。)ことからすると、補助参加申立人aらは、本件処理施設の設置の可否を巡る紛争において、実質的な当事者であると考えることもでき、補助参加申立人aらの補助参加を認めることは、訴訟の審理における手続的な公正公平に資する上に補助参加の法意にも適するし、補助参加申立人aらは、被告と同様の理由で原告の主張を争っており、その利害を共通にするものであって、補助参加申立人aらの補助参加を認めたとしても、基本事件の審理が遅延、複雑化することはなく、かえって、主要な争点が一か所に集中されて訴訟経済にも資するし、真の争点を早期に浮き彫りにし、審理の密度を濃くし判決の正確性を高めるという意味において、審理の促進、紛争解決への近道となる。

(五)  以上のとおり、補助参加申立人aらには参加の利益がある。

3  参加申立人吉永町の参加中立ての理由の概要

(一)  参加申立人吉永町は、基本事件につき、次の(二)ないし(四)のとおり、「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」(民事訴訟法四二条)に該当し(主位的主張)、もしそうでないとしても「訴訟の結果により権利を害される第三者」(行政事件訴訟法二二条)に該当する(予備的主張)。

(二)  民事訴訟法四二条の補助参加の利益は、近時、広く弾力的に考えられる傾向にあり、判決理由中の判断につき事実上の利害関係があれば足りると解すべきである。

そして、手続としての妥当性、利便性を考慮に入れるなら、実質的な利害関係があり、実質上の当事者であると認められる者については参加の利益を認めるべきであり、そのように解することが手続保障を十分なものとするのであって、本件においては、参加申立人吉永町が参加することにより、吉永町に関する訴訟資料も適切確実に提出され、訴訟の審理促進に有意であるし、被告敗訴後に予想される参加申立人吉永町の関与することとなる裁判上の手続等を避けることができ、訴訟経済にも資する。

(三)  参加申立人吉永町は、地方公共団体として、地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持し、上水道その他の給水事業を経営する事務を司る権能と義務を有しており(平成一〇年法律第五四号による改正前の地方自治法〔以下、「地方自治法」というときはすべて右改正前のものをいう。〕二条三項一、三号)、水源、水道施設及びその周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施設を講じ、水道事業及び水道用水供給事業の経営にあたり、その適性かつ能率的な運営に努めなければならないところ(水道法二条一項、二条の二第一項)、水道施設自体及び水道施設において供給する浄水の水質基準は法律により定められており(同法四、五条)、参加申立人吉永町は、水源環境保全のため、吉永町上水道及び簡易水道水源保護条例(以下「水源保護条例」という。)を制定し、水道施設の水質汚濁の防止及び清浄な水の確保のための方策を講じている。

そして、参加申立人吉永町は、町内に八つの水道施設を設置管理しているところ、本件処理施設は、右の水道施設のうち六つの水道施設の上流にあり、その影響を受けるものであるから、本件処理施設が設置されると、右の水道施設が汚濁され、参加申立人吉永町は、前記の責務を全うできなくなるおそれがある。また、被告の敗訴により、参加申立人吉永町は、水道等の水源の水質保全のため水源保護条例に基づく措置をとるほか、改めて行われる行政処分への不服申立、水源保護のための仮処分など、裁判上、裁判外を問わず、水源の環境保全、良水確保の手段を講じる必要性に迫られるし、参加申立人吉永町代表者である吉永町長は、水源保護条例により管理者として水源の安全性につき判断権限を有するところ、基本事件の判断が先行することにより、右町長が自由に右判断を行うことが極めて困難となるので、参加の利益につき原告主張の見解をとったとしても、参加申立人吉永町の法律的地位に法律的影響を与えるものといえる。

(四)  さらに、本件不許可処分の理由として被告が主張し、基本事件の主要な争点となっているのは、①本件処理施設が環境とりわけ水道水源となっている公共水域へ排出する水の水質の程度内容が必要とされる基準を満たしているか、すなわち人の生命、身体、健康に対する安全性の有無、②水道管理者である参加申立人吉永町と原告との間の調整が十分に行われているか、すなわち参加申立人吉永町と原告との事前協議の経過、内容、結果に関する判断であり、①については、水道事業者としての参加申立人吉永町の前記責務をまっとうできるか否かが争点となるのであるから、参加申立人吉永町は実質的当事者であるといえるし、②についても、水源保護条例によれば、本件予定地に産業廃棄物処理施設等を設置しようとする者は、あらかじめ管理者であり参加申立人吉永町の代表者である吉永町長と協議しなければならない旨規定されていて(同条例八条)、参加申立人吉永町としては、住民の生命及び身体の安全、財産を保持する責務を有し、良好な環境を維持、発展させるため、事前協議を尽くす努力を重ねていたところ、原告は、右協議が不十分のまま、一方的に協議を打ち切ったもので、基本事件において、右協議が未了か否かが審理、判断されるのであるから、参加申立人吉永町としては、基本事件に参加し、必要に応じて主張立証する必要性と利益がある。

4  原告の各参加申立てに対する異議の理由

(一)  補助参加申立人aらの補助参加申立てに対する主張

補助参加が許されるためには、補助参加人が訴訟の結果について法律上の利害関係を有する第三者でなければならないところ、基本事件は不許可処分の取消訴訟であり、補助参加申立人aらには、被告敗訴の判決である不許可処分の取消しという訴訟結果、すなわち被告が判決の趣旨に従い改めて原告の申請に対する処分をしなければならない義務を課せられることについて、何らの法律上の利害関係を有しないし、ましてや不許可処分の取消しが直ちに補助参加申立人aらの人格権や給水受給権を侵害するものではない。

そして、補助参加の利益があるというためには、訴訟の結果が、①補助参加人の法律上の地位に、②法律上の影響を与えることが必要であるところ、被告敗訴の結果、被告が再度の処分を行い、その結果、本件処理施設設置について許可処分がされる蓋然性が高いとしても、右処分後、原告が本件処理施設を設置し、操業を開始した結果、本件処理施設外に汚染物質が流出し、水源地が汚染されるという因果関係は、法律的影響ではなく事実上の影響にすぎない。

また、行政法規が災害防止ないし安全性確保を許認可の要件としているからといって、右法規が、直ちに周辺住民の生命、身体の安全等を個別具体的に保護する趣旨を含んでいるという解釈をとることはできず、むしろ、廃掃法は、許可に関して基本的に行政庁と許可申請者の二面関係を規律しており、それ以外の者がその過程に関与することを明文で認めていなかったし、解釈としてもこれを否定するのが一般的である。

したがって、訴訟物である本件不許可処分の違法性についての判断と補助参加申立人aらの法律上の地位とは論理上の先決関係になく、補助参加申立人aらには参加の利益はない。

そして、補助参加の利益の判断につき、仮に、判決理由中の判断であっても第三者が利害関係を有する場合は参加の利益を認められるという見解に立ったとしても、本件においては、不許可処分の違法性一般が理由中の判断となることから、補助参加申立人aらには不許可処分の違法性につき法律上の利害関係を有するものではなく、参加の利益は認められない。

(二)  参加申立人吉永町の参加申立てに対する主張

前記のとおり、参加の利益があるというためには、①参加人の法律上の地位に対し、②法律上の影響があることが必要であるところ、基本事件において被告が敗訴したとしても、被告に判決の趣旨に従い改めて本件申請に対する処分をすることを義務づけるにすぎず、参加申立人吉永町がこれにより直ちに水道水源の維持、確保の責務、義務を果たせなくなるという関係にはないし、参加申立人吉永町に対して新たに法的義務を負わせたり、何らかの事後処理手続的な行為を要求するものではないので、②の法律上の利害関係を欠いている。

参加申立人吉永町は、基本事件の争点が、本件処理施設の設置が水道水源等の安全確保に支障をきたすおそれがあるか否かであることを前提としているが、本件訴訟の争点は、本件処理施設が廃掃法一五条二項に定める許可要件を充足しているか否かであり、同条項及びこれを受けた政令等も、水道水源等の安全確保に支障をきたすおそれがあるか否かを許可要件として定めていない。

また、廃掃法と水源保護条例とは立法目的及び条文の規定の仕方が異なっており、本件不許可処分が取り消されたとしても、廃掃法一五条二項の要件を充足しているか否かは判断されるが、同条項が要件とはしていない水道水源等の安全確保に支障をきたすおそれがあるか否かについて判断されるわけではないので、右判断が参加申立人吉永町の代表者たる吉永町長の水源保護条例に基づく判断権限を法的に拘束することはない。

そして、参加申立人吉永町が、事前協議の状況や経過についてよく承知していたとしても、参加申立人吉永町の職員等が証人として出廷し証言すれば足りることであり、参加の利益とは関係ない。

さらに、参加申立人吉永町は行政事件訴訟法二二条に基づく参加も申し立てているが、本条による訴訟参加ができる者は、訴訟の結果に単に利害関係があるというだけでは足りず、訴訟の結果により既に取得している権利又は利益を剥奪されるという関係にある者に限られるところ、参加申立人吉永町は、基本事件の結果に対して事実上の利害関係を有するに過ぎず、訴訟の結果により既に取得している権利又は利益を剥奪される関係にある者とはいえない。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば次の事実が認められる。

(一)  基本事件の主たる争点は、言うまでもなく、本件不許可処分の当否であるところ、被告は、その理由として、平成一〇年五月二〇日付けの処分通知書(以下「本件通知書」という。)において主張する、(1)本件処理施設の設置により水道水源等の安全性確保に支障をきたすおそれがあること(これについては、さらに、①処分場の処理水が排出される下流河川の環境基準値や水道水質基準値を長期的安定的に維持することは困難であること、②浸出水調整池の遮水構造が不十分であり、亀裂、コンクリート腐食による漏水のおそれがあること、③地下水の監視及び汚染防止措置は、地下水の流動等が明らかではなく、水道水源等に近い特別な状況下を前提とすると、十分なものとはいえず、地下水等を汚染するおそれがあることの三点が示されている。)と、(2)事前協議が未了であり、地元吉永町との合意形成がなされていないこと(これについても、さらに、①地元吉永町の代表者である吉永町長から生活環境保全上建設を容認することはできないとの意見書が提出されていること、②行政指導に基づく吉永町と事業者の協議が未了であることの二点が示されている。)のほか、①浸出水調整池の規模では、多雨時における浸出水を安全に貯留することはできないこと、②多雨時において、浸出水処理施設からの放流水の水質を排出基準に適合させることができないこと、③処分場の盛土堰堤裏面に遮水シートがないこと、④最上部のピラミッド状となる処分場に、盛土堰堤の計画がないことなども追加して主張することができると主張している。

これに対し、原告は、基本事件において、右の被告の主張する事項が廃掃法及びこれを具体化した廃掃法規則並びに共同命令の規定する要件を超えるものであり、右の被告の指摘する事項を満たしていなくても必ずしも廃掃法上の要件を充足していないことにはならない旨主張している。

(二)  ところで、吉永町は、岡山県南東部に位置し、人口五四四五人(平成一一年一二月三一日現在)、面積約八八・六五平方キロメートルであり、南北に縦長の形をしている。吉永町には、大きく分けて、吉永町の南部を東から西へ流れる金剛川、金剛川の支流であり、吉永町の中央を北から南へY字型に流れる八塔寺川及び吉永町の西の端を南西へ流れる飯掛川がある。八塔寺川は、Y字の北西部分を中谷川といい、中谷川は途中から大藤川という名前に変わり、Y字の北東部分から南へ流れてくる八塔寺川と合流し、最終的に吉永町南部で金剛川に合流する。

吉永町には、八塔寺川、金剛川、大藤川、中谷川、飯掛川の流域付近に次の八つの水道施設(飲料水供給施設も含む。)があり、参加申立人吉永町代表者吉永町長が右施設を設置・管理し、各地域の住民に浄水を供給している(別紙図面参照)。

(1) 吉永上水道

八塔寺川と金剛川の合流点に水源地があり、八塔寺川の伏流水を給水の主体とする。昭和三二年四月から給水を開始しており、給水人口約三六六〇人、一日最大給水量五五五立方メートル、平成一二年一月末現在の給水戸数は一三〇五戸、一日平均送水量一一七六立方メートルである。浄化方法は、エアレーションと塩素滅菌である。

(2) 神根簡易水道

大藤川と合流後で金剛川と合流前の八塔寺川の西約三〇〇メートルに水源地がある浅井戸であるが、水量不足のため、平成一二年四月から吉永上水道に統合し、吉永上水道から送水している。昭和五九年三月から給水を開始しており、給水人口約六六〇人、平成一二年一月末現在の給水戸数は二二九戸、一日平均送水量は一〇三立方メートルである。

(3) 高田簡易水道

大藤川と合流後で金剛川と合流前の八塔寺川(神根簡易水道より上流)の北西約二〇メートルの位置に水源地があり、八塔寺川の直下流に可動堰を設けている。昭和五八年三月から給水を開始しており、給水人口約二〇〇人、平成一二年一月末現在の給水戸数は六八戸、一日平均送水量は五〇立方メートルである。水質がよく、浄化方法は塩素滅菌のみである。

(4) 大股簡易水道

八塔寺川と大藤川の合流点より約四〇〇メートル上流の八塔寺川より約二〇メートルの位置に水源地があり、八塔寺川の伏流水を取水している。昭和五五年三月から給水を開始しており、給水人口約九〇人、平成一二年一月末現在の給水戸数は三八戸、一日平均送水量は二五立方メートルである。水量不足により、平成七年度及び平成八年度に大規模改造を実施し、取水ポンプ交換、急速ろ過機等を設置した。

(5) 大藤下飲料水供給施設

大藤川沿近くに位置し、大藤川の表流水を取水している。昭和六三年から給水を開始し、給水人口約一〇人、一日平均送水量は二立方メートルである。浄水施設として、急速ろ過機、緩速ろ過池二池、PAC注入機を設置し、塩素滅菌を行っている。

(6) 大藤中飲料水供給施設

中谷川沿いに位置し、中谷川の伏流水を取水している。平成五年度及び平成六年度に設置され、給水人口約一〇人、一日平均送水量は二立方メートルである。

(7) 三国東部簡易水道

大藤川と合流する前の八塔寺川(合流地点から北東へ約二・五キロメートル上流部分)に位置し、八塔寺川の表流水を取水している。平成一一年度に設置され、平成一一年四月から一部給水開始、平成一二年四月から全部給水を開始している。計画給水人口一四〇人、一日あたりの計画浄水量四四・一立法メートル、平成一二年一月末の給水戸数は三〇戸、一日平均送水量は三一立方メートルである。浄水にはセラミック膜ろ過方式を採用している。

(8) 飯掛簡易水道

飯掛川約一〇〇メートル北側に水源地がある浅井戸であり、平成五年竣工、平成一二年一月末現在の給水戸数は二三戸、一日平均送水量は九立方メートルである。浄水方法は急速ろ過、塩素滅菌を行っている。

本件予定地は、中谷川の上流に位置し、補助参加申立人aら及び参加申立人吉永町は、本件処理施設から排出される水はすべて中谷川の上流付近に排出されるものと主張している。

(三)  別紙補助参加申立人目録記載の番号一ないし一八三、二二七三の補助参加申立人はγに、同一八四ないし五二一、五二四ないし五九四、六〇四ないし六三九、三五一二、三五二三の補助参加申立人はδに、同六四〇ないし一二〇九、三五一三ないし三五二〇の補助参加申立人はεに、同五二二、五一三、五九五ないし六〇三、一二一〇ないし一八六九の補助参加申立人はζに、同一八七〇ないし二一八二、三五二一、三五二四の補助参加申立人はηに、同二一八三ないし二二〇〇、二二〇二ないし二二七二、二二七四ないし二五七六の補助参加申立人はθに、同二五七七ないし二七五五、三五〇九ないし三五一二の補助参加申立人はιに、同二七五六ないし三〇五二の補助参加申立人はκに、同三〇五三ないし三一八五の補助参加申立人はλに、同二二〇一、三一八六ないし三二三一の補助参加申立人はμに、同三二三二ないし三三〇八の補助参加申立人はνに、同三三〇九ないし三三六〇の補助参加申立人はξに、同三三六一ないし三四三五の補助参加申立人はπに、同三四三六ないし三五〇八の補助参加申立人はσにそれぞれ居住する者である。

(四)  吉永町では、右各水道施設の水源環境保全のため、水源保護条例(丁二の1)を制定しており、これによれば、吉永町の水道施設管理者である吉永町長は、吉永町内の上水道及び簡易水道の水源水質の保護に努めなければならないという責務を負っており、水源の水質を保全するため、水源保護地域を指定することができ、水源保護地域において水源保護条例別表の対象事業を行おうとする者は、あらかじめ管理者たる吉永町長と協議し、関係地域の住民に対し、説明会の開催その他対象事業の計画及び内容を周知させる措置を採らなければならない旨規定されているところ、本件予定地は右の水源保護地域に含まれており、産業廃棄物処理業は右の対象事業に含まれている。

2(一)  ところで、補助参加は、「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」が参加を申し立てた場合に認められるものであるところ(民事訴訟法四二条)、補助参加の制度は、他人間の訴訟が係属した結果、補助参加人の法律的地位ないし法律的利益が実体法上変動を生ずるおそれが生じて不安定となり、あるいは将来の紛争が予測されるため、補助参加人に被参加人のための訴訟行為をさせることを通じて、その法律的関係を未然に明確にし、補助参加人自身の法律上の地位ないし法律上の利益をめぐる争いを解決することにより、補助参加人の法律的地位ないし法律的利益を保全するためのものである。

したがって、補助参加の制度が補助参加人自身の地位をめぐる紛争を判決により解決することを目的とする以上、補助参加人の地位をめぐる紛争も法律上の争訟性を備えたものでなければならないのであって、補助参加人の地位ないし利益は事実上、経済上のものでは足りず、法律上のものであることを要すると解すべきである。

他方で、補助参加は、他人間の訴訟の結果として不利益な判決の既判力が自己に及ぶことを避けるための制度ではなく、右の補助参加人自身の紛争解決ないし法律上の地位・利益の保全の必要性は、被参加人敗訴の判決において、補助参加人自身の法律上の地位そのもの又はその前提となる法律関係ないし事実関係についての判断がされた場合、そのことが補助参加人に対し、事実上ないし法律上の不利益な影響を及ぼすおそれがあれば、それを防止するために認められるべきものであることからすれば、「訴訟の結果」とは、判決主文で示される訴訟物に対する判断のみならず、判決理由中の判断も含まれ、「利害関係を有する」とは、第三者たる補助参加人の法律的地位ないし法律的利益に事実上の影響があれば足りると解するべきである。

(二)  この点、原告は、「訴訟の結果」とは判決主文の判断であり、訴訟の結果が補助参加人の法律上の地位に法律上の影響を与える場合でなければ、補助参加の利益を肯定できない旨主張する。しかし、補助参加の制度の目的は、右(一)のように解すべきであるから、「訴訟の結果」が判決主文で示される訴訟物に対する判断に限定されるべき必然性はなく、むしろ、基本事件において不利益な判決の既判力が自己に及ぶことを避けるためであれば、共同訴訟参加ないし共同訴訟的補助参加が認められる。したがって、補助参加の利益として考慮されるべき被参加人敗訴判決の影響は、既判力といった制度的な効力を前提とせず、補助参加人の法律上の地位ないし法律上の利益に対して、実質的な不利益の及ぶおそれがあれば、その不利益が法律上及ぶ場合であると事実上及ぶ場合であるとを問うべき理由はなく、被参加人敗訴の判決の理由中の判断により事実上不利益な影響が及ぶ場合においても、補助参加人としては、被参加人を補助するために訴訟に参加することにより、自らの法律上の地位ないし法律上の利益を保全する利益を有していると解するのが相当であって、補助参加の利益を前記の場合に限定する原告の主張は採用できない。

(三)  これを本件についてみると、誰もが、人として生存する以上当然に認められるべき本質的・基本的な権利である人格権の一つの内容として、個人の生命・身体を侵害されることなく安全に生活できる権利を有しており、水道施設における水源地及び供給水の水質の汚染が防止され、その安全性が確保された飲料水の供給を受けることにより、その生命・身体の健康をみだりに侵害されないという法律的地位ないし法律上の利益を有している。

そして、本件不許可処分により、原告は、本件許可申請に基づく本件処理施設の本件予定地における建設・操業を進めることができず、基本事件の判決により本件不許可処分が取り消され、被告により本件許可申請につき新たに許可処分が行われない限りは、本件処理施設が本件予定地に建設されて操業に至る可能性はない以上、本件処理施設がその安全性につきいかなるものであるかにかかわらず、本件処理施設の建設・操業により、右に述べた人として当然に有する補助参加申立人aらの人格権が侵害されることはなく、安全な飲料水の供給を受け、その生命・身体の健康をみだりに侵害されないという法律的地位ないし法律的利益を享受できる状態にある。

ところが、仮に、基本事件において、本件不許可処分が違法であると判断されて被告が敗訴した場合、被告は、本件許可申請につき、新たに許可又は不許可処分を行うにあたり、右判決理由中の判断に拘束される結果、本件許可申請に対して許可処分が行われ、本件処理施設が本件予定地に建設・操業される蓋然性が極めて高くなる。そして、仮に、本件処理施設が操業に至り、その結果本件処理施設から排出される水が、被告及び補助参加申立人aらが主張するように、本件予定地の周辺の水道施設の水源地及び供給水を汚染し、その水質を悪化させ、右供給水の給水を受ける住民の生命・身体の安全を侵害するものであったとすれば、補助参加申立人aらのうち、右供給水の給水を受ける者については、被告が敗訴しなければ生じることのなかった不安定な状態、すなわち生命・身体の安全を侵害されない権利があるにもかかわらずこれが脅かされるおそれが生じるという意味において、その法律的地位ないし法律的利益が害されるおそれが生じることとなり、あるいは、本件許可申請に対して新たに行われることとなる許可処分について取消訴訟を提起したり、人格権に基づく本件処理施設の建設・操業の差止訴訟等を提起しなければ、その法律的地位ないし法律的利益を保全できなくなるという意味において、その法律的地位ないし利益は不安定な状況におかれることとなるなど、基本事件において被告が敗訴した場合には、右の補助参加申立人aらの法律的地位ないし法律的利益に事実上の影響が生じるものと解することができる。

(四)  ところで、補助参加申立人aらのうち別紙補助参加申立人目録記載の番号一ないし三二三一、三三六一ないし三四三五、三五〇九ないし三五二四の補助参加申立人らは、前記1(二)(三)で認定したとおり、γ、δ、ε、ζ、η、θ、ι、κ、λ、μ、πのいずれかの地域にそれぞれ居住しており、吉永上水道、神根簡易水道、高田簡易水道、大股簡易水道、大藤下飲料水供給施設、大藤中飲料水供給施設のいずれかの水道施設からそれぞれ給水を受けているものと推認され(別紙図面参照)、右の水道施設はいずれも本件予定地の下流又はその周辺を水源地としているものと認められるから、右の補助参加申立人らには、基本事件における被告の敗訴により、その法律的地位ないし法律的利益に事実上の影響を受ける者ということができ、これらの者に被告のための訴訟行為をさせることを通じて、右の補助参加申立人らの法律的地位ないし法律的利益を保全する必要性があるといえる。したがって、右の補助参加申立人らについては、基本事件につき、補助参加の利益が認められる。

他方、補助参加申立人aらのうち別紙補助参加申立人目録記載の番号三二三二ないし三三六〇、三四三六ないし三五〇八の補助参加申立人らは、前記1(二)(三)で認定したとおり、ξ、νあるいはσのいずれかの地域にそれぞれ居住しており、三国東部簡易水道又は飯掛簡易水道のいずれかの水道施設からそれぞれ給水を受けているものと推認され(別紙図面参照)、一件記録によれば、右の水道施設はいずれも本件予定地の下流又はその周辺を水源地としているものと認めることはできないので、右の補助参加申立人らについては、基本事件において被告が敗訴し、本件不許可処分が取り消されたとしても、その生命身体の安全を侵害されない権利等の法律的地位ないし法律的利益につき事実上の影響を受けるものではなく、基本事件において被告を補助するために訴訟行為をさせることにより、その法律的地位ないし法律的利益を保全する必要性は認められないので、右の補助参加申立人らに補助参加の利益を認めることはできない。

(五)  次に、参加申立人吉永町の参加申立てについて検討するに、参加申立人吉永町は、普通地方公共団体として、地方自治法二条三項一、三号に定められているように、地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持し、上水道その他の給水事業を経営する事務を処理する権能及び義務を有しており、水道法に規定されているように、水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じ(同法二条一項)、水道により供給される水につき一定の水準の水質を保持しなければならない義務(同法四条、五条)を負っており、さらに、前記1(四)で認定したとおり、参加申立人吉永町の代表者吉永町長は、水源保護条例上、吉永町の水道施設の管理者として、吉永町内の上水道及び簡易水道の水源水質の保護に努めなければならない責務を負っていることが認められるところから、参加申立人吉永町及びその代表者である吉永町長は、吉永町内に設置する水道施設についてその水源地及び供給水の水質を一定の水準に保つことにより、吉永町の住民らに対し、一定の水準の水質の水を供給し、もってその住民らがその生命・身体の健康を侵害されることなく生活できるように地方公共団体としての事務を処理する義務を負っており、これを怠った場合には、右公法上の義務の懈怠となるのみならず、参加申立人吉永町は、右義務の不履行ないし不法行為として、一定水準の水質に満たない給水を受けたためにその生命・身体の健康を侵害された住民等により、損害賠償を請求されうるという法律的地位にあるものと認めることができる。

そして、前記のとおり、基本事件において本件不許可処分が取り消され、被告により本件許可申請につき新たに許可処分が行われない限りは、本件処理施設が本件予定地に建設されて操業される可能性はない以上、本件処理施設がその安全性につきいかなるものであるかにかかわらず、右に述べた参加申立人吉永町が住民らに対して負っている一定の水準の水質の水を供給する義務の履行を本件処理施設の建設・操業により阻害されることはなく、参加申立人吉永町は、その住民らから右義務の不履行ないし不法行為に基づく損害賠償を請求されることもないという法律的地位を保持することができるが、基本事件において被告が敗訴した場合、被告は、本件許可申請に対して、右の判決の趣旨に従った処分を行うこととなる結果、本件許可申請に対して許可処分が行われ、本件処理施設が本件予定地に建設・操業される蓋然性が高くなり、さらに、本件処理施設が操業に至り、その結果、本件処理施設から排出される水が、被告及び参加申立人吉永町が主張するように、本件予定地の周辺の水道施設の水源地及び供給水を汚染し、その水質を悪化させ、右供給水を受ける住民の生命・身体の安全を侵害するものであったとすれば、参加申立人吉永町は、被告が敗訴しなければ生じることのなかった不安定な状態、すなわち水道施設の水源地及び供給水を一定の水準の水質に保ち、一定の水準を満たした給水を行う義務を履行することができなくなるおそれが生じ、その結果、右給水を受けた住民等から損害賠償等を請求されるおそれが生じるという意味において、参加申立人吉永町の法律的地位ないし法律的利益に事実上の影響が生じると解することができるので、参加申立人吉永町には民事訴訟法四二条の補助参加の利益が認められる。

(六)  原告は、補助参加申立人aらの法律上の地位ないし利益と訴訟物である本件不許可処分の違法性とは論理上の先決関係にないことから、補助参加の利益はない旨主張するが、前記(一)ないし(四)で述べたとおり、基本事件において被告が敗訴した場合、補助参加申立人aらのうち前記(四)のとおり、補助参加の利益を認めるべきである補助参加申立人らについては、基本事件の判決主文において本件不許可処分が取り消され、その後、同判決の理由中の判断を前提にして本件許可申請に対する判断がなされるであろう結果として、それまで享受していた法律上の地位ないし法律上の利益が不安定になるという事実上の影響を受けるのであって、この意味において、基本事件の判決理由中の判断も含めた判断の結果とその結果により右の補助参加人らの受ける事実上の影響とは論理的先後関係にあるといえ、原告の右主張は理由がなく、採用することはできない。

また、原告は、基本事件において被告の敗訴の判決がされたからといって、直ちに、参加申立人吉永町が、水道水源の維持・確保の義務を果たせなくなるという関係になく、これにより参加申立人吉永町が新たに法的義務を負うことはないとして、参加申立人吉永町に補助参加の利益はない旨主張するが、前記(一)(二)及び(五)で述べたとおり、基本事件において被告が敗訴した場合、参加申立人吉永町の右の義務を履行できなくなるおそれが生じ、このような不安定な地位におかれること自体、法律上の地位ないし利益に事実上の影響があるといえ、基本事件において被告を補助することにより、右の不利益を避ける必要性があるといえるので、この点についても、原告の主張を認めることはできない。

三  よって、その余の点について判断するまでも

なく、別紙補助参加申立人目録記載の番号一ないし三二三一、三三六一ないし三四三五、三五〇九ないし三五二四の補助参加申立人ら及び参加申立人吉永町には、補助参加の利益を認めることができるので、民事訴訟法四二条により被告を補助するため基本事件に参加することを許可し、同目録記載の番号三二三二ないし三三六〇、三四三六ないし三五〇八の補助参加申立人らについては、補助参加の利益を認めることはできないので、本件参加申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小野木等 裁判官 村田斉志 裁判官 村上誠子)

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